前節の5失点敗戦から1週間。シーズン序盤の連敗は何としても避けたいアルビレックス新潟(以下、新潟)。制限付きながら有観客となって3500人以上が入ったホームゲームで悪い流れを断ち切れるか。相手は昨年J1で17位となり降格を味わった松本山雅FC(以下、松本山雅)。しかし昨年はJ1で34試合40失点しか喫しておらず(リーグ8位)、守りの堅さはJ1でも十分通用する。この堅守と体を張った激しいプレーを武器にしたチーム。新潟にとっては「真のチーム力」を試すには絶好のチームと言える。
新潟スタメン
敗戦を喫した前節からの変更点は5つ。
①シルビーニョ選手ではなくペドロマンジー選手をスタメンで起用。マンジー選手はリーグ戦初出場。おそらく松本山雅相手ではこれまで3試合に比べてチャンスは少ない。なので、少ないチャンスを決めきるため、決定力の高いマンジー選手を起用したのだろう。キャリア110試合106ゴールの力はいかほどか。
②左サイドハーフに本間至恩選手が入った。3試合スタメン出場中だったロメロフランク選手がベンチスタート。最大の武器であるドリブルのキレを見せてもらいたい。
③ゴンサロ・ゴンザレス選手が外国人枠の関係か、ベンチからも外れた。ここまでの3試合ではいいプレーをしていたが、こればかりは致し方ないか。代わりに入ったのはバランス型ボランチ、貴重なレフティー・島田譲選手。リーグ戦初スタメンだ。
④左サイドバック、堀米悠斗選手ではなく田上大地選手が起用された。本職はセンターバックだが、恐らくクロスに対しての高さ対策と守備力を買われての起用か。
⑤センターバック、舞行龍ジェームズ選手が先発復帰。この2試合は守備力低下が目立ってしまっていたが、この人の先発復帰でどこまで守備力が戻ってくるか。
ベンチには大谷幸輝選手、DFには早川史哉選手と帰ってきた大本祐槻選手、キャプテン・堀米悠斗選手、MFは高木善朗選手とロメロフランク選手、2試合連続ゴール中だったシルビーニョ選手。FWには不在。
次節の町田戦が中3日という過密日程のためか、おそらくローテーションを組んでいるのではなかろうかと予測される。町田戦ではこの試合でスタメンから外れたゴンザレス選手や堀米選手、高木選手やロメロフランク選手、シルビーニョ選手がスタメンで入ってくると予想される。
松本山雅スタメン
松本山雅は再開後2試合、いずれも引き分け。金沢、甲府と難敵相手だったとはいえ、1年でのJ1復帰を目指すチームであれば勝ち切りたかったところ。2試合ともシュート本数・ボール支配率ともに相手を上回っている。あとはゴールのみというところだろう。
今年就任した布啓一郎監督はチームにポゼッションをもたらすためこれまでの松本のサッカーに変化をもたらしている印象。(群馬の時はカウンターベースだったが、松本では少し変えている感じか。)ラインを高く保ちながらボールを保持し、伝統の堅守は残すという作業は簡単ではないが、市立船橋高校を高校年代の全国大会で9回優勝に導き、群馬をJ2復帰させた人物。必ず成果をあげてくるだろう。
要注意はNo.10 セルジーニョ選手。これまでも彼に痛い目に遭っている新潟(2018年第2節では右からのクロスにヒールシュートを決められている。)はどう対応するか。
・試合展開
前半
「新潟がボールを保持し、松本山雅が奪って縦に早くカウンターという形」と試合前には予測されていた 。しかし実際には「新潟がボールを保持しながら攻撃はカウンターベース、松本山雅がボール支配率は低いながらも攻撃はじっくり攻める。」みたいな少しイレギュラーな感じで進んだ印象。(解説をされていた梅山修さんは「松本山雅がボールを支配し、新潟がカウンター」と言っていたが、前半のボール支配率は新潟61%、松本山雅39%なので、そのコメントは半分違う気がする。)
15分には松本山雅の要注意人物、セルジーニョ選手が新潟ディフェンスラインの背後を斜めに入る動きで侵入し、フリーの状態でボールを受ける。藤田和輝選手との1VS1の場面を作るが、シュート(パスのような蹴り方だったが)は枠の左に外れ、難を逃れた。ちなみにこの場面では藤田選手が積極的に前に飛び出し、シュートコースを狭くする動きを見せていた。前節、前に出てからのクリアミスで失点を喫してしまったことを引きずっている様子はなさそうだ。
17分、マウロ選手のロングフィードにマンジー選手が右に開きながら反応。ボールを収めて渡邉新太選手にパス。精度の高いポストプレーを見せると、新太選手は1人を股抜きでかわし、再びマンジー選手へパス。エリア内に侵入したマンジー選手が左足でこれまた精度の高いシュートを放つも、村山智彦選手がしっかりとセービング。得点は奪えず。
33分、新潟は右からのコーナーキックを得る。キッカーはレフティーの島田選手。左足から放たれたボールはファーサイド、舞行龍選手の下に向かう素晴らしい精度のボール。舞行龍選手が胸トラップで落としたボールに田上選手が反応。右足でカンフーキックのような形でボレーシュートを放つと、見事にゴールに吸い込まれる。
この前にも右からのコーナーキックを得ていた新潟。その時にも島田選手は精度の高いボールをファーサイドを蹴り込んでいたが、このコーナーキックでもほぼ同じところに蹴り込んでいた。チームとして「ファーサイドを狙う」意図があったということがあったと見えるが、その狙い通りのところに繰り返し蹴り込む再現性の高さ。かなりの精度の高さを誇る左足だ。
ここまで楽な展開ではなかったが、その中でセットプレーから先制点を奪った新潟。
38分にはペナルティエリア手前でフリーキックを得た新潟。ボールのそばには左足の島田選手と右足の田上選手が並ぶ。蹴ったのは1点目も決め、イケイケの田上選手。精度の高いボールだったが、僅かに枠の外に外れてしまう。しかしいいフリーキックだった。
さらに44分、松本山雅の分厚い攻撃をなんとか凌ぐと、秋山選手が左足で精度の高いフィードを蹴る。マンジー選手が再び精度の高いポストプレーを見せ、ファビオ選手が松本山雅ディフェンスラインの背後に裏抜け。相対した鈴木雄斗選手を切り返して振り切ると左足でシュートを放つが、村山選手が好セーブを見せる。
前半は1-0 新潟リードで終える。
後半
後半は松本山雅が攻勢を強める。ボール支配率の面でも松本山雅が新潟を上回る展開になっていく。
53分、新潟ディフェンスの中央へのマークが甘くなったところを見逃さず、藤田息吹選手がパスを出す。このパスに阪野豊史選手が反応。ほぼ1対1になりかけていたが、新井選手がここを察知して、見事にカバー&インターセプトで危機を防ぐ。一瞬「PKか!?」と思ったが、よく見るとしっかりとボールに足が伸びていたので、当然ながらファールは無し。
新潟は苦しい流れになるが、随所に効果的なカウンターを見せる。しかしラストパスの質が少し低く、なかなかシュートまで持ちもめない展開が続く。
その後、お互いに決定機を創り出せない展開。お互いに以下のような交替策を使いながら打開を図る。
58分 新潟 マンジー選手→ロメロフランク選手
67分 新潟 本間選手→高木選手
舞行龍選手→早川選手(舞行龍選手の足が攣ったことが影響か)
69分 松本山雅 塚川孝輝選手→久保田和音選手
阪野豊史選手→高木彰人選手
74分、セルジーニョ選手がクリアボールを拾うと、ペナルティエリア左45度のところからシュートを放つも、枠を外れる。さらに79分、セルジーニョ選手の創造心溢れるヒールパスから久保田和音選手が3列目からの効果的な攻め上がりを見せ、チャンスを創る。ペナルティエリア付近までドリブルで持ち込み、グラウンダーで強烈なシュートを放つも、藤田選手が好セーブを見せる。
さらに、松本山雅は長身・188センチの服部康平選手を投入し、パワープレーを敢行。
対して新潟は疲労の見えていた新井選手に替え、堀米選手を投入。
80分にはセルジーニョ選手のスルーパスに鈴木選手が巧みな動き出しで反応。キーパーとの1対1の場面となるが、藤田和輝選手が素晴らしい飛び出しでピンチを防ぐ。その後もピンチは続くが、藤田和輝選手が先輩たちにガンガン指示を出し、守備陣を引っ張っていく。
そして、上手く時間を使いながら試合終了まで集中を切らさずに戦い続けた新潟。そのまま試合終了。1-0で新潟は貴重な勝利を収めた。
・個人的な感想
新潟
正直、ここまでの3試合と比べると思っていたサッカーができていたとは言い難い。試合をコントロールできない時間、ボールを持たれる時間も多くなったが、そういった難しい試合を勝ち切ったのは本当に大きい。
この試合で見えたのは『チーム力』だ。
前節、5失点を喫した守備陣。その要因になってしまった藤田選手は試合中の時点でメンタルが落ちているように感じた。しかし試合後、早川選手や大谷選手が声を掛け、新井選手や田中達也選手がアドバイスを送った。(以下、リンク)
それがきっかけとなったようで、この松本山雅戦では素晴らしいプレーを見せ、見事に完封。チームを勝利に導いた。
また、田上選手起用についてもチーム力が表れた感じ。前節2失点ほど、田上選手にディフレクションして取られてしまったこともあり、一部の人間から相当な批判を喰らってしまっていたが、この試合で見事にやり返してくれた。田上選手のメンタルの強さ、本来持っている能力の高さを信じたアルベルト監督の起用、そしてそれに決勝ゴールと体を張った気持ちの溢れるプレーで応えた田上選手。前節の『戦犯』として叩かれてしまう結果となった2選手を立て直したチームの組織力。モチベーションを保たせたアルベルト監督を中心にした首脳陣。文字通り、『チーム力』の勝利だ。
前半、後半ともにいいサッカーはしていたと思う。新潟の目指しているサッカーもさせていなかった。「相手のやりたいサッカーをさせなかった」というところはさすが実力派のチームだという印象。
ただ、攻撃はもう少し縦に早くしても良かったと思う。特に前節の金沢の攻撃を見ていたためか、「もっと早く攻めればいいのに」と対戦相手の目線から見ても思ってしまったところはある。
それでも、セルジーニョ選手のテクニック、阪野選手の抜け目のない裏抜けへの姿勢、守備陣の堅さとこのあたりはさすがにJ1レベル。(特に守備陣は堅かった。新潟が数的優位の場面でも慌てずに守り抜いたシーンも多々あり、さすがだと思わされた。)
次回はアウェーでの対戦となる。今回は上手く勝ち切ったが、今回以上に難しい試合になるのは確実だろう。それまでに新潟としては「チーム力」をより高めていきたいところだ。
とりあえず、2勝目!よく戦った!
以上