第8節、難敵・ツエーゲン金沢戦はまさに『激闘』だった。
ボールを保持し、ゲームを支配していこうとする新潟
堅牢な守備を軸に新潟の攻撃を機能させず、一瞬で裏をとるカウンターで得点を狙う金沢
お互いの持ち味・やりたいことを出す好勝負。
金沢を率いるのは、ジュビロ磐田に天皇杯優勝(2003年)、ナビスコカップ優勝(2010年)をもたらし、当時J2でも中堅だったコンサドーレ札幌を天皇杯ベスト4(2006年)に導き、2012年途中~2015年にかけて新潟を率い、奇跡の残留劇(2012年)、クラブ初のナビスコカップベスト4(2015年)に導いた実績もある名将・柳下正明監督。
さすがの分析力、指導力といったところだ。相変わらずの名将ぶり。
過去の対戦成績(過去6試合ではお互いに点を取る試合展開で、お互いに完封されたことがない)を鑑みて、点取り合戦となると予想していたが、それに反して「1点が遠い試合展開」となる。
0-0で迎えた65分、新潟にアクシデントが発生する。右サイドでフィジカルの強さを活かしたプレーを見せ、金沢守備陣にとって脅威となっていたロメロフランク選手が脚を痛めて途中交代となる。そこに投入されたのは背番号39・矢村健選手だった。
・大学2年から4年まで3年連続北信越大学サッカーリーグ1部MVP
・大学3年次、北信越大学サッカーリーグ1部で得点王
などの活躍を見せて、昨シーズン、新潟に加入。(大学時代の実績から愛称は「キングケン」)
その昨シーズンは、ルーキーながら19試合に出場。第31節・モンテディオ山形戦では抜け目ない動きで相手守備陣の裏をとり、プロ初ゴールを奪った。
「攻撃陣の主力が多く抜けた今年、2年目を迎える矢村選手が躍動してくれる」と思っていた方も少なくないはず。
しかし今シーズンは苦しんでいた。開幕から3試合ではベンチ入りするも、リードを奪う試合展開との兼ね合いもあって出場機会に恵まれず。さらに右足首のケガから、ベンチ入りもできない展開となってしまう。
本職である最前線には鈴木孝司選手や谷口海斗選手といった実績のある選手たちがアルベルト監督の信頼を掴み、定位置を奪取するのは容易ではない。
加えて、第3節・レノファ山口戦では星雄次選手、第5節・東京ヴェルディ戦では三戸舜介選手といったサイドハーフの選手がゴールを決めてアピールをする。焦りはあったはずだ。
そんな中、鈴木孝司選手が「多少違和感があったので」(アルベルト監督談)で欠場。加えてロメロフランク選手が途中交代。アクシデントとはいえ、訪れた今シーズン初出場のチャンス。ここを活かせるか、今後のキャリアを占うと言っても過言ではなかった。
迎えた77分。集中力を切らさず守っていた金沢守備陣が一瞬だけ見せた「スキ」を本間至恩選手が逃さない。センターサークル付近に転がったルーズボールにいち早く反応し、1人を交わす。最終ラインの裏に絶妙なポジショニングとタイミングで抜け出した矢村選手へパスを出す。しっかりとシュートを撃てる場所へコントロールすると、放たれたシュートは、背後から迫りくる庄司朋乃也選手の足と191センチの長身と長い手脚を活かしたセーブを見せる後藤雅明選手の腕を潜り抜け、ゴールに吸い込まれた。
この1点が決勝点となり、新潟は1-0で勝利を収める。今シーズンのJ2の中でも屈指の好勝負を制して、首位を堅持した。
試合後の取材で矢村選手は次のように語っている。
「これから先長い戦いなので、ケガだったり、いろんな選手のコンディションもある。そういう中で、試合に出られてない立場の選手がいかにチームの底上げをできるかが大事になるので、引き続き、今日は今日と切り替えて、次の練習から臨んでいきたいと思います。」
開幕から8戦無敗と好調なチーム。その状況下ではなかなかメンバーを代えにくいところがある。そうなれば、出場機会に恵まれていない選手も存在する。しかしその中でもモチベーションを切らさずに自己研鑽を続ける選手たちが新潟にはいる。苦闘を続けていた矢村選手の活躍がチームをさらに飛躍させるはずだ。
「居残り組」の意地とプライドがチームを強くする。
以上