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「補強」は「外部から獲ること」と必ずしも同義ではない

スポーツ界における「補強」と言われると、何を想像するか。

一般的には「移籍市場で選手を獲得すること」、「有望な新人選手を獲得すること」などのように「外部から選手を獲得すること」をイメージする人がほとんどだろう。その認識は決して間違いではない。

今年のJリーグもそうだ。J1では清水エスパルスヴィッセル神戸などが夏の移籍期間で即戦力選手を獲得して戦力を増し、順位を上げることに成功。特にエスパルスの補強効果は絶大で、乾貴士選手ヤゴピカチュウ選手北川航也選手と獲得した選手が即結果で応える最高の形で、残留争いから一歩抜け出した。

J2では首位を走っていた横浜FCブラジル人選手2人山根永遠選手を獲得し、その選手たちが活躍を見せ、昇格争いから一気に抜け出す要因となった。また、ザスパクサツ群馬長倉幹樹選手高木友也選手川本梨誉選手を獲得し、残留争いを戦う上で選手層を厚くした。その甲斐あって、第32節ではこれまで19戦で7分12敗と過去6年間一度たりとも勝てなかったベガルタ仙台相手に1-0の勝利(しかも得点は高木選手のクロスに長倉選手がヘッドで決める形)を収めた。

さらに凄いのはFC琉球だ。6月にケルヴィン選手を、7月にサダムスレイ選手を獲得すると、2人とも即チームにフィット。サダムスレイ選手に関しては5試合で3ゴールを挙げる活躍。最下位に沈み、J3降格危機に立たされたチームを完全に生き返らせた。

「短期間でチームにフィットし、チームを救う活躍を見せる『移籍組』を獲得すること」が有効な戦略であることはここにあげた例だけでも十分に伝わるだろう。

 

さて、ここからが本題。

アルビレックス新潟はこの夏の移籍市場に大きな決断を迫られていた。7月中旬にクラブが誇るアカデミー出身のウインガー本間至恩選手の海外移籍が実現し、さらに第28節のファジアーノ岡山から第30節の徳島ヴォルティスまで3試合連続で複数失点を喫していた守備陣にも不安が残っていた。

これを受け、ウインガーと守備陣(センターバックサイドバック)の獲得を望む声が続出。J1で出場機会の少ない選手や、同カテゴリーであるJ2の主力を引き抜くべきなのではという声が絶えなかった。(ここまでは当然理解できる。)

 

しかしアルビレックスの強化部と現場で出した結論は「外部からの補強なし」というもの。この判断に対して凄まじい数の批判が殺到。中には誹謗中傷レベル、またはそれ以上の罵詈雑言もあり、それらが強化部へ降り注いだ

これはまだ書けるレベルだが、移籍期間中でよく見られたのが以下の内容。

・「横浜FCが選手を獲得しているのに」

・「ベガルタが選手を獲得しているのに」

・「ファジアーノが選手を獲得しているのに」

・「債務超過の危機にあるアビスパ福岡でも必死になってジョンマリ選手を獲得している。他のチームはチームを強くする意欲を見せているのに、お前らは何もしていないし、強くする意欲すらない」

(1番目から3番目はまだ「昇格争いしているライバルチームが即戦力となる選手を獲得している」動きを見て焦っていると思えば、まだ0.1%くらいは理解できるが、4番目は本当に0.1%すら理解できない。「意欲が無い強化部だったらここまで昇格争いするチームを作れるわけないし、シーズン前からいろんな想定をして選手を少し多めに獲っておくこともしない。というか、意欲だけで選手は獲得できないから!小学生でも分かるわ!」という内容だ。)

 

こうした批判に対して当時、私が疑問を抱いていたのが、以下の2点だ。

アルビレックスのサッカーにいきなりフィットする選手がこの夏の市場にいるのか?

②現状の攻撃陣にそこまで不満があるのか?

というところである。

まず①について言うと、アルビレックスのサッカーは他のチームに比べて選手のタスクが多いというのが影響している。特に守備陣は「ただ守る、跳ね返す」だけでは全くダメで、足下の技術も高くないといけないし、高く設定しているディフェンスラインをコントロールすることに対応する能力も高くないといけないゴールキーパーですら足下の技術が高い選手でないといけないくらい「ボールを支配するサッカー」をやることは本当に難しい。それに加入して即対応できるような選手はそうそう市場に出回らない。

加えてコロナウイルス禍の中で過去2年にはほとんどなかった「定員に足らずに試合中止」がチーム・カテゴリー問わずに頻出している中で進むシーズン中にそんなハイスペックな選手はまず来ないだろう。

 

続いて②について。本間至恩選手の移籍から移籍期間終了までの5試合の成績が以下のとおり

第26節 VSレノファ山口 3得点 ボール支配率53% シュート15本

第27節 VSツエーゲン金沢 3得点 ボール支配率63% シュート18本

第28節 VSファジアーノ岡山 2得点 ボール支配率64% シュート19本

第29節 VSV・ファーレン長崎 2得点 ボール支配率68% シュート12本

第30節 VS徳島ヴォルティス 2得点 ボール支配率64% シュート13本

これだけでも分かるとおり、本間選手が移籍して攻撃力が落ちていたわけでもなく、それまでと同じくらい、ゴールを奪うことに関してはこれまで以上に鋭くなっているという印象だ。特に28節から30節までは、「1試合平均1失点以下」の守備を誇るチームを相手に複数得点をあげており、得点パターンもフリーキックあり、ミドルシュートあり、カウンターあり、細かいパスワークでの崩しあり、とバリエーション豊富だった。攻撃陣については本当にうまくいっていると思った。

加えて、離脱中のイッペイシノヅカ選手三戸舜介選手谷口海斗選手(第32節のロアッソ熊本で復帰)が練習合流間近だったり、少しずつ練習に合流しているという話があり、終盤戦に向けて戦力が整いつつあるところに、無理に選手を獲得する必要があるのかという疑問があった。

 

 

そんな中、春のキャンプからチームに帯同していた選手がチームに勢いをもたらす

複数失点を続けていた守備陣の救世主となったのは、大きなケガを乗り越え半年かけて慎重にフィジカルを整えてきたトーマスデン選手空中戦の強さはもちろんのこと、地上戦でも圧巻の存在感を示す守備力の高さは凄まじい。加えてボールテクニックもハイレベルで、トラップ1つ・ステップ1つ・パス1本で相手のプレスを軽々いなす姿はまさに「オーストラリア代表経験者」の凄みを感じさせるに十分だ。デン選手のスタメン定着後、チームは3戦連続クリーンシートと結果でも証明している。守備陣の層は一気に増すことになった。

そして攻撃陣では、小見洋太選手シマブクカズヨシ選手といった20代前半の若手有望株がウイングのポジションで躍動している。本間選手のようなドリブル力は無くとも、積極的にペナルティエリア内に侵入する姿やシュートを打ち込む姿守備でも手を抜かない姿は素晴らしい。第32節のロアッソでは、復帰した谷口選手のパスに小見選手が反応しシュートを決め、これが決勝点となる活躍。

守備陣・攻撃陣双方で、出場機会が少なかった既存戦力が自分の武器・能力を存分に発揮し、「俺たちがいる!」と証明してみせた。

 

 

「補強」という言葉を調べると、「弱い部分や足りないところを補って強くすること」と記載がある。

スポーツ界における「補って強くする」方法は、なにも「外部から選手を獲得すること」だけではない。「事前に準備していたものをより高いレベルに練り上げること」もその1つであるのだと感じさせる、アルビレックスの移籍市場での立ち振る舞いだった。