本日、アルビレックス新潟はベガルタ仙台に勝利したことでJ1復帰を果たした。
長く苦しいことばかりだった5年間のJ2生活に別れを告げ、2023シーズンから再びJ1の舞台に挑むことになる。
そんなアルビレックスのサッカーについて、アルビレックスファン・サポーター以外の方はどのようなイメージを持っているだろうか?
特にJ1にいた2017シーズンまでの印象で止まっている方は以下のようなイメージを持っていることだろう。
○ブラジル人アタッカーがチームの得点源
○外国籍選手が居ないと、得点はまともに奪えない。
○ネット上で「百姓一揆」と表現された、守って守ってのカウンターサッカー
○有望な生え抜き日本人アタッカーはほぼ皆無
少なくとも2017シーズンまではこの認識は間違っていない。なにせ、
○2002シーズン〜2012シーズンまでのチーム得点王は毎年ブラジル人選手
○2008シーズン〜2010シーズンにかけて、マルシオリシャルデス選手欠場は23戦あったが、未勝利
○2004シーズン〜2017シーズンまでのJ1在籍14年間で、日本人の2ケタスコアラー1人(2013シーズンの川又堅碁選手のみ)
○2004シーズン〜2017シーズンまでの間、アルビレックスで100試合以上出場した「生え抜きのアタッカー」、1人(田中亜土夢選手のみ)
この歴史では、上記の印象・イメージを持たれていても仕方がないと言える。
しかし、「今のアルビレックスは全く違うチームである」ということを書いていきたい、というのが、今回のテーマである。
基本的には上記した「他チームサポーターが抱いているであろう印象・イメージ」と直近2シーズンでの実際のデータとで比較していく形にして紹介をしていくことにする。
○ブラジル人アタッカーがチームの得点源
→先述したとおり、2002シーズン〜2012シーズンまでは11シーズン連続でブラジル人アタッカーがチーム得点王。
2002、2003→マルクス選手
2004〜2007→エジミウソン選手
2008→アレッサンドロ選手
2010→マルシオリシャルデス選手
2011、2012→ブルーノロペス選手
さらに、2016シーズン(ラファエルシルバ選手)・2017年シーズン(ホニ選手)・2019シーズン(レオナルド選手)もブラジル人アタッカーがチーム得点王。
ちなみに余談にはなるが、2014シーズンはボランチであるレオシルバ選手がチーム最多得点(6得点)だった。この年の日本人アタッカーの最多得点は3得点で4人(成岡翔選手、鈴木武蔵選手、指宿洋史選手、川又堅碁選手)が並んでいた。
これほどまでにブラジル人アタッカーに頼っていたアルビレックスだが、直近2シーズンではどうなのか。
そのデータが以下のとおり。
2021シーズン→ブラジル人選手のゴール数 0
2022シーズン→ブラジル人選手のゴール数 0
ウソではない。本当に0ゴールなのである。
というより、この2シーズンについては、ブラジル人選手の所属そのものが0人だった。
ちなみに、少し範囲を広げて「外国籍選手」ではどうなのかというと、
2021シーズン→外国籍選手のゴール数 0
2022シーズン→外国籍選手のゴール数 4
(アレクサンドレゲデス選手2ゴール、イッペイシノヅカ選手2ゴール)
となっている。
いかにこの2年間、日本人選手がゴールを決めているのかが分かるだろう。
○外国籍選手が居ないと、得点はまともに奪えない。
→1つ前と若干被ってしまうところはあるが、より具体的な数値を出すことにする。
2002シーズン〜2017シーズンまでのチーム全体の得点数のうち、外国籍選手がどれだけゴールをあげているかを表す「外国籍選手ゴール率」が以下のとおり。
2002シーズン→48%(36ゴール/75ゴール)
2003シーズン→53.8%(43ゴール/80ゴール)
2004シーズン→59.6%(28ゴール/47ゴール)
2005シーズン→72.3%(34ゴール/47ゴール)
2006シーズン→37%(17ゴール/46ゴール)
2007シーズン→60.4%(29ゴール/48ゴール)
2008シーズン→50%(16ゴール/32ゴール)
2009シーズン→54.8%(23ゴール/42ゴール)
2010シーズン→66.7%(32ゴール/48ゴール)
2011シーズン→68.4%(26ゴール/38ゴール)
2012シーズン→51.7%(15ゴール/29ゴール)
2013シーズン→8.3%(4ゴール/48ゴール)
2014シーズン→26.7%(8ゴール/30ゴール)
2015シーズン→26.8%(11ゴール/41ゴール)
2016シーズン→51.5%(17ゴール/33ゴール)
2017シーズン→42.9%(12ゴール/28ゴール)
2013シーズン~2015シーズン以外は、凄まじいレベルの依存率である。特に2005シーズンは70%超えという依存率である。
得点を奪える外国人アタッカーがいることは悪いことではないし、いて困ることは無いが、ここまで依存してしまうと、コンディション不良が起きた場合や故障離脱が起きた場合に対応ができなくなる可能性が高くなる。
せめて30%以下にはしておきたいところだろう。
この「外国籍選手ゴール率」について、2021シーズンと2022シーズンはどうだったかが以下のとおり。
2021シーズン→0%(0ゴール/61ゴール)
2022シーズン→5.6%(4ゴール/71ゴール)
改めて数値で出すと、ここまで下がるものかと驚いた。2シーズン合計で4ゴールという依存の少なさ。
外国籍選手が少なかったこと、なかなかフィットできなかったことを差し引いてもこの依存度の低さは凄いことである。その上で2シーズン連続60ゴール超えという実績も作ったのは素晴らしい。
今後J1を戦う上では、外国籍選手に頼るところもあるだろう。しかし、日本人選手だけでこれだけできる今のチームであれば、以前ほどの依存状態にはならないだろうと想定される。
○ネット上で「百姓一揆」と表現された、守って守ってのカウンターサッカー
→かつては「守備から試合を組み立てて、縦に速く、ボールを奪ったらゴールまでスピーディーに攻撃を仕掛ける」という、堅実なスタイルを採っていたアルビレックス。ゆえにボール支配率は必然的に低くなる傾向にある。
しかし、今のアルビレックスは180度違うといっていい。
それを示すのが、以下のデータである。
2017シーズンボール支配率→44.7%(リーグ1位/18チーム中)
2018シーズンボール支配率→49.9%(リーグ1位/22チーム中)
2019シーズンボール支配率→48.5%(リーグ1位/22チーム中)
2020シーズンボール支配率→55.7%(リーグ5位/22チーム中)
2021シーズンボール支配率→61.3%(リーグ1位/22チーム中)
2022シーズンボール支配率→59.8%(リーグ1位/22チーム中)
(2022シーズンは39節終了時のデータ)
(データ参照:Football LAB様
データによってサッカーはもっと輝く | Football LAB[フットボールラボ] (football-lab.jp) )
J1から降格してすぐの時の2018シーズン・2019シーズン、つまりチームにJ1経験組が多くいた時ですら、リーグの平均以下のボール支配率だった。それほどまでに「ポゼッション」とは縁のないチームだったということがわかる。
それが2020シーズンのアルベル監督(現FC東京監督)の就任を境に大きく変わった。特に2021シーズンは61%超えという驚異の数値である。
(参考:2020シーズン、あれだけ「ポゼッションサッカー」と話題となり、J1昇格を果たした徳島ヴォルティスでも58.4%だったのだから、この2シーズンがいかにすごいかが分かるだろう。)
さらに凄いのは「1試合平均パス数」だ。
2017シーズンから2022シーズンまでの1試合平均パス数が以下のとおり。
2017シーズン1試合平均パス数→351.0本(リーグ18位/18チーム中)
2018シーズン1試合平均パス数→425.2本(リーグ12位/22チーム中)
2019シーズン1試合平均パス数→442.2本(リーグ14位/22チーム中)
2020シーズン1試合平均パス数→546.2本(リーグ6位/22チーム中)
2021シーズン1試合平均パス数→637.4本(リーグ1位/22チーム中)
2022シーズン1試合平均パス数→679.6本(リーグ1位/22チーム中)
(2022シーズンは39節終了時のデータ)
(データ参照:Football LAB様
データによってサッカーはもっと輝く | Football LAB[フットボールラボ] (football-lab.jp) )
アルベル監督(現FC東京監督)が就任した2020シーズン以前と以後でここまで大きく変わるものかと驚くばかりである。
ボールを6割前後握り、パスを繋ぎながらゲームを支配し、自分たちの下でコントロールする。
今のアルビレックスはこういったスタイルである。
○有望な生え抜き日本人アタッカーはほぼ皆無
→アルビレックスの日本人アタッカーといえば、鈴木慎吾選手や矢野貴章選手といった選手たちの印象が強い人も少なからず居るだろう。ただ、鈴木慎吾選手も矢野貴章選手もプロスタートは他のクラブ(鈴木慎吾選手は浦和レッズ、矢野貴章選手は柏レイソル)だった。
アルビレックスの生え抜きとなると、田中亜土夢選手が最も活躍した選手となるだろうが、その他は本当に出てこない。(ちなみに、川又堅碁選手は2012年にファジアーノ岡山に期限付き移籍している)
J1にいた14年で、生え抜きの日本人アタッカーが数えるほどというチームも珍しいが、かつてのアルビレックスはそういうチームだった。
しかし、今は違う。
その代表格が、この夏にベルギーの超名門・クラブブルージュに移籍した本間至恩選手だ。アルビレックスユースからの生え抜きアタッカーは類い稀なドリブル能力はもちろんのこと、アルビレックス在籍中に大きく成長を遂げたパス能力とシュート能力を遺憾なく発揮し、攻撃の中心として、そしてチームの顔として活躍を見せ続け、21歳にして欧州移籍を実現させた。
そんな本間選手の移籍があり、チームの攻撃力に不安がよぎる中、2人の若き才能がチームを引っ張る。2021シーズンにアルビレックスに高卒新人として加入した三戸舜介選手と小見洋太選手だ。
2人とも主戦場はサイドハーフ。それぞれの特徴は以下のとおりである。
【三戸舜介選手】
三戸選手は、圧巻のスピードを武器にしたドリブル能力の高さが注目されがちだが、パスセンスやシュートセンスも素晴らしく、総合力がかなり高いプレーヤーである。
163センチと小柄ながら、それを感じさせないパワーも持ち併せていて、今シーズンの第12節・いわてグルージャ盛岡戦で決めたシュート、第18節・水戸ホーリーホック戦で決めたシュートを見てもらえれば、お分かりいただけるだろう。
(この動画、4分08秒からゴールシーンあり)
(この動画、0分42秒から強烈なシュートシーン、3分04秒からゴールシーンあり)
この手のタイプの選手は守備力に難がある選手が多いが、この三戸選手は守備力も兼ね備えており、フィジカルも強い。おそらく、近いうちにA代表招集もあるだろう。
過去のアルビレックスで似たタイプを探すとなるとマルシオリシャルデス選手が一番近いか。
【小見洋太選手】
選手名鑑で「何を考えているのか読めないタイプ」と書かれる選手。
三戸選手のような圧倒的なスピードはないが、フィジカルの強さや間合いの取り方のうまさで相手をかわしていくドリブル力を持ち、高精度のシュート、相手ディフェンスラインの背後をとる動き出しのうまさも武器となっている。
また、守備への意識も高く、第17節・横浜FC戦の自身2点目はその象徴だ。相手最終ラインへのプレッシングもサボらずに実行。そのプレッシングの技術も高く、ボール奪取するシーンやパスコースを限定するシーンも多くみられる。
(この動画の1分38秒からこの試合であげた1点目のシーン、2分36秒から2点目のシーンあり)
今までのアルビレックスにはいなかったタイプの選手で、なんとも形容しがたい。
(髪型だけなら寺川能人選手(現・アルビレックス新潟強化部長)だが。)
将来的には「ドリブルもできる岡崎慎司選手」のような選手になってくれたらとは思っている。
上記した三戸選手・小見選手以外にも、シマブクカズヨシ選手や吉田陣平選手といった若く将来有望な選手が揃っている現在のアルビレックス。
未来は明るい。
このように、1度目のJ1とは真逆、
「180度違うアプローチ」で2度目のJ1に挑むことになるアルビレックス新潟。
2023シーズンのJ1でどれだけ暴れることができるか、期待したい。
以上