6シーズンぶりのJ1リーグに挑むアルビレックス新潟。久しぶりに参戦する「日本サッカー最高峰の舞台」に向けて、オフシーズンの動きに注目が集まっていたが、J2優勝に輝いた現有戦力を維持していくことをメインにしていったという印象だ。2022シーズンに在籍したのが29人だったが、そこからの残留組は26人。この残留率の高さは過去のJリーグでも類を見ないレベルだろう。
その中でも特に大きかったのは、高 宇洋選手・藤原 奏哉選手・伊藤 涼太郎選手の残留だ。この3人のクオリティは、チームがJ1で戦うため、そして定着するためには不可欠だったので、残留させることができたのはとてつもなく大きい。
また、数は多くなかったが、ピンポイントに新戦力も加えてきた。このオフに加入することになった選手を以下のとおり紹介することとする。
No.2 新井 直人選手
3シーズンぶりにアルビレックスに帰ってきた、高い守備力が自慢の「最終ラインのスーパーマルチロール」
両サイドバックが本職であるが、センターバックやボランチをやらせても能力の高さを発揮でき、3バックにも4バックにも対応できるポリバレント性が魅力の1つだ。
2022シーズンに在籍した徳島ヴォルティスではレギュラーとして38試合に出場していたが、これはチーム3番目の数値。J1経験メンバーも多数残っていたヴォルティスでこの数値はお見事である。
堀米 悠斗選手、藤原 奏哉選手という左右サイドバックのレギュラーは強力であったが、サブとの力量の差が大きかったことは明白だった2022シーズンの反省を活かしたこの補強は非常に大きい。
No.11 太田 修介選手
FC町田ゼルビアでチーム得点王(11得点)に輝いた「スピードスター」であり、「攻撃のマルチロール」
攻撃的なポジションであれば、左右・中央問わずに対応できるポリバレント性の高さを持っている。さらに、どのポジションでも持ち味のスピード、裏抜けのうまさを発揮できるのが魅力的だ。
また、スタメン出場だけでなく、途中投入でも結果を残せる選手で、2021シーズンには途中投入から7ゴール3アシストを決めた実績も持っている。「ジョーカー起用でも計算が立つ選手」が不足していたアルビレックスにとってはこの上ない武器になる。
「2022シーズン 11得点」が示すとおり決定力も高く、初めて挑むJ1の舞台でもゴール量産が期待できるだろう。また、直近2シーズンで13アシストを決めていて、チャンスメーカーとしても脅威となりそうだ。
No.17 ダニーロ ゴメス選手
AAポンチプレッタからやって来た攻撃的MFだが、主に左右のウインガータイプとみていいだろう。
以下のプレー集を見てみた限りの印象ではあるが、まず抱いた印象が、「松橋監督のサッカーに合いそうだな」というものだ。
ボールを持ったら、「まずゴールに向かって進んでいこう」としているのがよくわかる。動画を見る限り、
①「ボールを持ったらゴールに向かって突き進む」
②「イケると判断すれば積極的にシュートを打ち込む」
③「無理なら周りを使ってパスを出す」
の順で優先事項を決めている印象で、非常にアグレッシブなプレースタイルであることが伝わってくる。また、守備への献身性もかなり高そうだ。
動画内ではボールを後ろに下げたりするシーンが無いので、「パスの出しどころもドリブルできるスペースも無い」場合にどうするかというのがまだ分からないところだが、そこは松橋監督以下首脳陣の腕の見せ所だろう。
また、シュートレンジが広い点は、今のアルビレックスでは貴重だ。精度の面は多少目を瞑らないといけないかもしれないが、「ペナルティエリア外からでもガンガン打っていくぞ」という選手がいてくれると、相手DFとしてもなかなか守りにくいはずだ。
昨シーズン通して見て感じたのは、重心を下げ、がっちりとブロックを組んできた相手と対峙すると、組織で崩すのはかなり大変で難しいということ。特に、ジェフ戦2試合や第34節のトリニータ戦ではそれを痛感させられた。
そういう相手を崩すには独力でブロックを打ち破りに行けるマンパワーが必要となる。そのマンパワーを持っているのが、このダニーロ選手である。
No.23 グスタボ ネスカウ選手
クイアバECからやって来た189センチ90キロの「超大型」FW。
以下のプレー集を軽く見てみた限りだが、とにかく空中戦に強い。
サイドから上げられるクロスへの反応が早く、前述のとおり体格も文句なしのため、相手DFにしてみれば相手にしたくないタイプだろう。いいクロスが入ってきたら、得点量産もかなり期待できる。
また、体の大きさに似合わずスピードも備えているようで、裏抜けも期待できそう。フィジカルの強さも問題なさそうで、アルビレックスの1トップに求めたいポストプレーにも期待大だ。
もちろん懸念点もある。2021シーズン・2022シーズンの2シーズン合計で、ブラジルセリエA出場はわずか5試合のみということで、
「試合勘は?」
「足下の技術に相当な問題がある?」
「Jリーグのテンポの速さについていけるのか?」
「アルビレックスのサッカーに対応できるのか?」
という点は気になるところだ。
とはいえ、アルビレックスのFW陣には明らかに欠けている「高さ」と「強さ」を持っているグスタボネスカウ選手。
(現在のアルビレックスFW陣で最長身は鈴木 孝司選手の179cm)
チームの新たな武器としての活躍に期待したいところだ。
ちなみに、ダニーロ選手もグスタボ ネスカウ選手も2021年にクイアバECでプレーしていた経験があり、面識はあるものと思われる。
久しぶりのJ1の舞台とあって、「大型補強」を期待する声も多かった。そのため、このオフの「派手さに欠ける動き」に不満を述べる方も数多く見受けられた。
しかし、「アルビレックスのサッカーに短期間でフィットしてくれる選手」を獲得していく現在のスタイルは、2020年オフから続いているもので、今に始まった事ではない。過去2年間で獲得した(復帰させた)主な選手たちが以下のとおり。
2020年オフ
FW 谷口 海斗選手・鈴木 孝司選手・小見 洋太選手
MF 高 宇洋選手・三戸 舜介選手・星 雄次選手
DF 藤原 奏哉選手・千葉 和彦選手
2021年オフ
MF 伊藤 涼太郎選手・松田 詠太郎選手
DF トーマス デン選手・渡邉 泰基選手
これを見ると分かるが、「圧倒的なネームバリュー」はなくとも、「確実に仕事ができる選手」をピンポイントに確保してきているのが分かる。
例えば、谷口選手は当時J3のいわてグルージャ盛岡とロアッソ熊本で結果を残していたが、J2より上のカテゴリーでの実績はゼロだった。しかし、今ではアルビレックスの攻撃陣の柱となっている。藤原選手はギラヴァンツ北九州で主力ではあったが、当時はボランチを主戦場としていた選手で、右サイドバックはサブポジションくらいの起用だった。それが今や、アルビレックスで「不動の右サイドバック」となった。
伊藤選手は1年間通して主力として起用された経験は、水戸ホーリーホック在籍時の2018年だけで、その時ですらスタメン起用は42試合中20試合という選手だった。才能は圧倒的なものがあるが、ムラが激しく、「計算が立ちにくい選手」という印象だったが、昨年は42試合すべてに出場し、30試合でスタメン出場。9得点11アシストの結果を残し、J2リーグ最多得点を誇ったアルビレックス攻撃陣を牽引してみせた。
日本代表歴のある千葉選手にしても、その前2シーズン合計のリーグ戦出場は1試合のみで、戦力としては懐疑的な見方もされていたが、結果はすでに周知のとおりだ。
「良さそうな戦力や有名な選手を集めたいだけ集めれば、全てを解決できる」といった単純な話ではない。そんなのが通用するのはゲームの中だけだ。
「目指すサッカー、目指すスタイルに合致する選手を集めること」が最も大事だということをこの2年間で証明してみせたアルビレックス強化部。
チームに残ってくれた26人の精鋭たちと、このオフに獲得した4人の新加入選手、そして松橋 力蔵監督以下、コーチスタッフを含めた2023年型アルビレックス新潟が作り出す攻撃的サッカーに自信を持っているが故のこのオフの動きだろう。
6シーズンぶりに挑むJ1の舞台。白鳥は高く飛び立つ準備を整えつつある。
以上